人間の安全保障と地域開発

ラオス

ラオスにおける人間の安全保障の課題

UNCRDはラオスにおける人間の安全保障の課題を調査するために、最新の貧困調査資料を事前に検討し、ラオス政府計画協力委員会計画局の関係職員らと討議を重ねたうえで2001年2月、現地で予備調査を実施しました。

ラオスでは米の自給率(1人あたり16 kg/月以下)が貧困の指標として、家畜の保有頭数が世帯資産の指標として用いられています。村落が脆弱であると判断されるのは、世帯の60%以上が貧窮している場合、あるいは村内に学校や診療所がなく、最寄りの診療所や郡の病院まで徒歩で6時間以上かかる場合です。 一方、郡が脆弱であると見なされるのは、郡内の村の60%以上が貧窮している場合、あるいは郡内の村の40%以上が診療所と学校へのアクセスがない場合、または郡内の村の70%以上に電力が供給されていない場合です。 なお、ある地域が脆弱であるとされるのは、その一帯でアヘン栽培が行われている場合、またはその一帯に未処理の不発弾が埋まっている場合、またはその一帯で洪水が発生する場合です。

経済的な不安定さは、生計を立てる手段が少なく、焼畑耕作や雇われ労働などによる所得が生存ぎりぎりの水準にある場合に顕著に見られます。 したがって脆弱性が高いとされるのは、焼畑を営む農家、自然災害や疫病の被害者、強制移転や土地配分の対象世帯などです。 貯蓄や相互扶助の仕組みを失った場合にも、人間としての尊厳や民族的誇りを失った場合と同様に脆弱性が上昇します。

環境的な不安定さは、土地配分事業による焼畑耕作地の固定化、耕作地の不足、土壌の劣化、生産不振など土地に関連した問題、農業への投資不足、自然災害、環境荒廃、水不足などが原因になっています。 焼畑地域では収量低下にともない林産物への依存が高まり、これが林産物の過剰採取につながり、森の小動物の捕獲や消費に関する文化的タブーが無視され、野生生物保護の伝統慣行が守られない状況も出現しています。多くの村落では農業インフラが未整備で、改良普及サービスも実施されていないため、焼畑休閑期間の短縮化が土地の劣化や生産性の低下を招いています。このような状況下で村落は貧窮化せざるを得ず、ある地域では村人たちが土地配分事業にともなう強制移転を嫌い、集団で離村することすらあります。なお、衛生状態が悪いためマラリアや赤痢性下痢が慢性的に見られる一方、精神衛生に係わる問題も、うつ病やアヘン中毒などとして出現しています。

社会的な不安定さは、村落リーダーの不在、自主的取り組みの欠如、強制移住問題、健康問題、子供が多すぎること、商才の欠如、不十分な教育、政府支援の不足、数世代にわたる慢性的な貧困、アヘン中毒、未処理の不発弾、窃盗、農産物の価格の低さなど、さまざまな要因が絡んでいます。 また、教育が暮らし向きを楽にしない現実や民族間の言語の壁などが原因となって教育のレベルはさらに低下しています。

文化面では、文化的多様性の喪失という不安定要素があります。 多民族社会のラオスには多様な文化が存在しますが、貧困や移住にともなう新しい環境や生活様式への不適応などが原因で、独自の文化を失いつつあります。 マスメディアを通じて入ってくる隣国タイの影響も、文化的多様性喪失の原因となっています。

以上のような不安定要素を解決するためには、土地配分方式の改善、農業普及事業の推進、家畜の保護、物的・社会的インフラの整備、農産物の価格支持などの政策対応が求められます。 一方、女性たちは、小規模金融、織物や手工芸品のマーケティング支援、家族計画などのアドバイス、精米所の整備による過酷な労働状況の改善などを貧困軽減の有効な手段と見ています。

ラオスにおける人間の安全保障プロジェクト

人間の安全保障と地域開発に関する調査研究プロジェクトのラオス担当チームは、プロジェクト実施の前提として以下の点を念頭においています。 人間の安全保障の考え方を地域開発戦略に組み込むことで、経済的リスク、環境劣化、社会の崩壊、政治的対立、文化の衰退などに起因する個々の世帯や地域社会の脆弱性の問題への取り組みを強めることができる。

地方分権化を推進することで、地方自治体は人間の安全保障を重視した地域振興の計画立案や実施に積極的に取り組めるようになる。

地方自治体の能力形成は、人間の安全保障を地域開発に組み込むための重要な手段である。

ラオス担当チームは1998年7月以来、計画委員会と共同で県レベルの計画担当者を対象とした研修を3回にわたり開催するとともに、県・郡レベルの研修ニーズ調査を実施してきましたが、2000年初頭からは、この研修プロジェクトを人間の安全保障に関するプロジェクトに統合することとし、計画委員会計画局や県・郡の計画部局の協力を得て、人間の安全保障を重視した地域振興施策を推進するための能力形成に必要な現地調査に着手しました。

人間の安全保障に関する取り組みの重点は、経済的、環境的、文化的、社会的、政治的リスクに対する脆弱性を軽減あるいは除去することにあります。 したがって、ある地域の人間の安全保障に関する課題を理解するには、脆弱性分析を行って地域社会の弱者グループを確認し、この弱者グループが直面している経済的、環境的、文化的、社会的、政治的リスクをまず知る必要があります。同時に、地域の能力を評価し、人間の安全保障の課題への取り組みがどの程度行われているかを知ることも重要になります。 これらの点を考慮して、ラオス担当チームは世帯および村レベルの経済的、環境的、文化的脆弱性とそれへの対応状況を検討し、県や郡行政が既存施策のなかでこれらの問題にどれだけ対応する能力をもっているか把握することを目的に調査を実施しています。

調査対象地域は、ラオスの北部、中部、南部からそれぞれルアンプラバン県、ビエンチャン県、サバナケット県を選びました。 予備調査の結果、これらの県は地理的特性、人口特性、開発状況、近隣諸国との経済的統合状況などが異なるため、人間の安全保障に関しても異質の課題を抱えていることが分かりました。

これら3県での調査に着手するにあたり、現地で調査に携わる県・郡の担当者および計画委員会計画局の職員を対象とした「人間の安全保障と地域振興のための脆弱性評価に関する研修ワークショップ」を2001年4月27‐28日にラオスのビエンチャンで開催しました。 また、調査結果を検証し、その結果を地域振興計画の立案や郡レベルの実務者研修プログラムの策定に反映させるための方法を検討するために、第2回の研修ワークショップを2001年8月に開催しました。

脆弱性調査の結果

2001年5-6月の調査では、上記3県を対象に各県2郡(平野部と山間部から各1郡)、さらに各郡から2村(都市近郊と遠隔地から各1村落)を選び、各村落で少なくとも40世帯の聴き取り調査を行いました。 この調査から得られた情報は、県や郡レベルの実務者育成に役立つだけでなく、研修で実施する計画演習にも有益なものであることが確認できました。

また、調査結果の暫定的な分析から、ルアンプラバン県では都市近郊村落と遠隔地村落の脆弱性が類似している一方、サバナケット県およびビエンチャン県では遠隔地の村落の方が都市近郊の村落部よりもはるかに貧しい状況にあることが判明しました。 全般的に見て、貧困の度合いが激しいのは山間部や遠隔地の村落であり、経済的な不安定さは低所得層に顕著で、多くの世帯が生存ぎりぎりの水準にあることが分かりました。移転村落では米の収量が減少し、住民たちは家畜を売り払ったり、森から林産物や小動物を採取したり、雇われ労働者として働いて生計を立てています。 また、野菜栽培や織物(低地ラオ族)、籠づくり(中地ラオ族)、刺繍(高地ラオ族)などの手工芸で追加収入を得ている村落や、林産物を売って医療、教育、交通、被服などの出費に充てている村落もあります。

環境の問題としては、森林破壊、土地の劣化、家畜の病気、生活用水の不足、し尿処理の不備、下痢やマラリアの発生などが確認されました。 一方、社会問題として、若者の教育や技能のレベルが低いことや、人々を貧困の悪循環に陥れる麻薬への依存などが村人たちの関心事であることが分かりました。 また、文化面では、伝統の喪失が重要な問題として注目されています。 この問題は、とくに移転により新しい生活様式に適応せざるを得ない状況にある高地村落や、マスメディアを通してタイの文化が入ってくる国境付近の村落などで認められました。

これらの問題に対して村落住民は様々な対応策を取っていますが、なかには家畜の販売、焼畑農業の継続、国内での移住、タイでの不法就労など、世帯や村落に対して負の影響を伴うものがあります。 一方、正の影響を伴うものとしては、換金作物の栽培、手工芸品の販売、農地の再配分、実学教育、少数民族の伝統文化の奨励などが認められました。

また、調査結果から県・郡レベルには以下のような能力形成のニーズがあることが確認できました。 保健医療や教育など社会サービスの受給者の明確化
灌漑事業の品質管理
地域レベルでプロジェクトの効果を引き出すための進捗管理と評価の方法
村落参加型の調査やデータ収集に立脚した地域計画技術の向上
開発の受益者の意識強化
自助努力を促す地方行政と村落との連携体制づくり
事業(村民のみで実施する事業、行政の援助を受けて実施する事業)の優先順位について村民と対話を進めるための指針となる、郡計画担当者用の実用的マニュアルの作成

ラオス地域振興実務者の育成について

このプロジェクトは1998年、ラオス政府計画委員会(CPC:Committee for Planning and Cooperation)の地域振興実務者育成プログラムを支援するためにCPCと共同で着手したものです。 CPCの実務者育成プログラムは、県や郡で地域振興計画の立案・実施を担当する行政官や企画担当者の能力向上を目指すもので、この分野の実務者育成こそが地方分権化政策のもとでの開発行政の実効性を高めていく鍵になると考えられています。 このプロジェクトを通じて、これまで研修ニーズ調査や研修教材とカリキュラムの作成、研修担当者育成のためのワークショップなどを実施してきました。 プロジェクトには、UNCRD地域開発国際研修コースに参加したCPC担当者3名が企画の段階から参加し、現在も研修ワークショップで講義や計画演習を担当しています。

ラオス地域振興実務者の育成のためのニーズ調査

UNCRDはラオス政府計画委員会(CPC)と共同で、1999年5月から6月にかけ、地域振興計画立案・実施に関する研修ニーズ調査を実施しました。 この調査から、計画立案や実施を担当する実務者の不足が地域振興の大きな障害要因になっていることが確認されました。 また、個々の担当者には自分の職務に関連する知識や技能を高めようとする意欲は十分にあるものの、組織的に能力向上を推進する研修の仕組みがないところに問題があることも明らかになりました。 この調査結果を踏まえ、CPCと協議のうえ採用した研修戦略では、(1)当初はトレーナーの育成に重点をおきつつ徐々に実務者育成のための研修を拡充する、(2)現場に密着した実践的な研修内容とする、(3)仕事を離れて行う研修(Off-JT)と仕事をしながら技能形成をはかる研修(OJT)との有機的結合をはかる、の3点を重視しています。
また、重点的に研修すべき領域としては、(1)地方分権政策のもとで推進すべき地域振興のあり方、(2)地域振興と住民参加、(3)参加型プロジェクトの立案と実施、(4)プロジェクトの進捗管理:モニタリングと評価、(5)データ収集・分析と統計手法、(6)ラオスおよびアジア諸国における地域振興の実践事例、などが研修ニーズ調査から明らかになりました。

ラオス地域振興実務者の育成のための研修教材とカリキュラムの作成

UNCRDとラオス政府計画委員会(CPC)の関係職員は、上記の重点研修領域を念頭において、地域振興計画の立案・実施についての一連の教材を作成しました。 この教材は、1999年から2回開催したトレーナー育成を目的とした研修ワークショップで活用するとともに、2001年1月の第3回研修ワークショップに向けてラオス語に翻訳されました。 この第3回研修ワークショップでは、前2回の研修ワークショップで訓練を受けた講師陣が、県および郡レベルの企画担当者を対象に、ラオス語版の教材を用いて研修を実施しました。
教材作成と並行して準備した研修カリキュラムは、「講義と討論(地方分権化政策のもとでの地域振興の可能性と課題、地域振興プロジェクトの計画立案、実施、モニタリング、評価の手法などをテーマにして)」「研修参加ペーパーの発表と討論(地域振興計画の立案・実施および県・郡レベルの人材育成に関する経験交流を促進するために)」「計画演習(地域住民が主体となった地域振興を推進するための参加型プロジェクトの立案と実施手法を中心にして)」「アクションプランの作成(郡レベルの地域振興担当者を対象とした研修コースの企画をテーマにして、研修の目的や内容、トレーナーと研修方法、研修の評価方法などについて検討する)」「現地視察」「参加者による研修コースの評価」、で構成されています。

貧困削減と人間の安全保障に向けた開発計画研修ワークショップ(2007)
第7回・第8回ラオス地域振興研修ワークショップ(2005)
第6回ラオス地域振興研修ワークショップ(2004)
第5回ラオス地域振興研修ワークショップ(2004)
第4回ラオス地域振興研修ワークショップ(2003)
第3回ラオス地域振興研修ワークショップ(2003)
第2回ラオス地域振興研修ワークショップ(2002)
人間の安全保障と地域開発に関する能力形成ワークショップ(2002)
第1回ラオス地域振興研修ワークショップ(2002)
第2回ラオス研修ワークショップ(2001)

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