人間の安全保障と地域開発

カンボジア

カンボジアにおける人間の安全保障と地域開発

カンボジアには30年間にわたる戦渦の跡が色濃く残されており、ほぼ壊滅状態となった経済、社会、インフラの再建や、人材、社会資本の深刻な不足の解消にようやく着手したところです。紛争が続く中、市民の人権は長い間無視されてきました。復興は遅々として進まず、人々は貧困に苦しめられています。貧困が最も厳しいのは国民1,140万人の85%が住む農村地帯で、農村人口の40%が貧困ライン以下の生活を余儀なくされています。貧困の原因となっているのは、食糧不足、土地所有問題、医療サービスの欠如などです。中でも医療サービスの欠如は大きく生産性を低下させ、世帯の負担を増加させています。

カンボジアには、難民(国内難民を含む)、戦争未亡人や孤児、少年兵、地雷で障害を負った人々など、社会的弱者が多数存在しています。しかし保護政策はごく限られており、貧困層や弱者の多くはNGOなどの援助に頼っているのが現状です。児童労働、売春、女性・子供の人身売買が広く行われていることからも、市民の生活の苦しさがうかがえます。

カンボジア計画省が発行した「カンボジア人間開発報告書」によると、同国の人間開発指数(寿命、生活水準、教育水準に関する平均達成度を測定したもの)は東アジアと東南アジア地域内でラオスに次いで最悪の数値です。また、カンボジアの人間開発指数は都市部と農村部の間で大きな開きがあり、農村部の数値は都市部の数値より21%も低くなっています。貧困率も地域格差が激しく、沿岸部と山間部では最低の22%、トンレサップ地域では最高の38%、平野部ではその中間の29%となっています。

カンボジアでは旧態依然とした弱い統治制度が問題となっていますが、この原因となっているのは、不透明で責任の所在があいまいな中央集権行政、政府職員の志気を高める制度の不足、最新の管理技術・専門的能力・情報ツールの欠如した組織体制、開発計画と参加型統治に関する地方自治体の能力不足、軍事面優先の資金配分、などです。

農村世帯の脆弱性分析

UNCRDの「人間の安全保障」調査研究グループ・カンボジア担当チームは、2001年2月にカンボジアのカンポンチュナン州とカンポンスピュ州を訪れ、両州から比較的裕福な村と貧しい村を各1村ずつ選択して、地方自治体の職員や村民への聞き取り調査を実施し、脆弱性の分析を行いました。その目的は、環境、気候、経済・社会・文化・保健面におけるリスク、対処方法、農村世帯の脆弱性を明らかにすることでした。

調査にあたっては、UNCRDが用意したアンケート用紙をカンボジア王立農業大学(RUA)の教職員がクメール語に翻訳し、自治体職員によって村民に配布されました。また、各村の村長が開発問題や食糧確保の現状に関して討議を行ったり、村民のニーズや優先事項がより詳しく明記されるように女性情報提供者を決めたりするなどの準備が行われました。

アンケートへの回答から、全村とも地方自治体やNGOによる開発への介入の不足が主要課題であることが明らかとなりました。農村の生活、特に弱者の生活を改善するために必要不可欠な社会サービスの提供が不備である点も全村に共通した問題点でした。

女性は男性より、また女性が世帯主の家庭は男性が世帯主の家庭よりも脆弱性が高く、しかもリスクを逃れる方法がほとんどないという事実も判明しました。このため女性と女性が世帯主の家庭に焦点を当てた開発介入を行う必要があります。

これまで村の女性組織自体が女性が開発活動に参加することを妨げてきた事実を考慮すると、今後有効な女性組織を結成していくためには、地方自治体、NGO、支援団体らの協力が大いに必要になると思われます。女性リーダーシップ研修、農業経営や農業生産性向上、零細企業や中小企業経営、医療ボランティア、クレジット、水利権などに関する女性組織の結成が待たれます。

地域能力評価

このプロジェクトでは、カンボジアにおける人間の安全保障と平和を推進するため、地方自治体や住民組織など、地域の能力を評価し育成しています。カンボジアの地方自治体は、組織的構造、管理体制、伝統的方式、職員の思考態度などが妨げとなって、人間の安全保障と平和構築に関連したプログラムやプロジェクトの実施が困難な状況に陥っています。カンボジアの地方自治体にとって人間の安全保障は新しい分野であるため、その組織能力の育成は徐々に行う必要があると考えられています。

UNCRDはカンポンチュナンとカンポンスピュの2州、およびに各州から選択した2地区を対象としてグループ・ディスカッションとSWOT 分析を行い、それぞれの長所と短所、および外部からの機会と脅威を比較分析し、地方自治体の組織能力を向上するための戦略を考察しました。

2州ではUNDP-CARERE-SEILAプログラム以外には能力育成プログラムが実施されておらず、人間の安全保障を促進する能力が不足しています。クメール・ルージュによる統治の間に教育制度が破壊されたこともあって、州や地区レベルの行政官の質が下がっています。特に不足しているのは計画、管理、専門的分野に関する能力で、素材としてのデータ収集はできても、その分析や計画策定を行える職員がいないのが現状です。カンボジア政府は今後分権化政策を促進するため、2002年2月にはコミューン(郡)議会選挙を予定しています。これに伴って村議会が分権化プログラムを計画・実施する能力が必要となるため、地域レベルでの能力育成や研修が重視されるようになると考えられます。

またUNCRDは、参加型調査研究の手法を用いて様々な分野についてデータや情報の分析を行っており、分析作業が終わり次第、レポートを作成して調査結果を発表する予定です。調査結果は研修ニーズの評価や地方自治体を対象としたワークショップの計画策定に活用されます。データ・情報の分析対象分野は以下のとおりです。

  • 食糧の安全保障-食糧への経済的および物理的アクセス
  • 生計基盤としての自然資源管理-林業と漁業
  • 保健-公共保健医療サービスへのアクセス、公共保健医療サービスの質、医療支出、病院・診療所・医療センターなどの保健医療施設
  • 教育-教育サービスへのアクセス、教育支出、教師・学校・学校施設の質
  • 農村生活-貧困と最低限の生活水準、所得保障、マイクロクレジット
  • 農村インフラ-農場と市場間の道路、小規模灌漑、土地、住宅
  • 女性と子供の安全保障-虐待や保護遺棄、過剰労働、売春、国外への人身売買などからの保護
  • 地方自治体の開発計画などに係わる組織能力

カンボジアにおける人間の安全保障評価会議(2006)
カンボジアにおける人間の安全保障評価に関するワークショップ(2005)
「人間の安全保障と都市開発」研修ワークショップ(2003)
カンボジア−フィリピン パートナーシップ現地研修プログラム(2002)
ワークショップ「食糧の安全保障」(2001)

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